「アンダーテイカー 葬る男と4つの事件」の感想の続きである。
なぜこのようなミステリ映画と見紛うタイトルやビジュアルなのかと疑問だったが、いま確認したところ原題は「Powder Blue」というしゃれたタイトルだった。
そういえばストリッパーとして働くローズが店のオプションでやらされる売春のためのVIPルームが「パウダーブルー」だった。
そして映画を見ていて全然気が付かなかったがこれは「クリスマス直前を迎えるLAの街」が舞台だったらしい。
みんな涼しげな格好で街を闊歩しておりクリスマス感を全然演出されていなかったように思うがそうらしい。
そしてローズの父ジャックは「守護天使のようにやさしく見守って」いたらしい。
先に書いてしまうと物語の終盤で末期癌のジャックはかき氷のような青い雪につつまれて教会の前でひっそりと亡くなる。
美しい光景ではあるもののえ、なんで雪青いの。と思っていたが、実はここは原題につけられるほど重要な意味をもつシーンだったのだ。
やさしく娘を見守りつづけたジャックが亡くなり、ほんとうの天使になったということ象徴していたのかもしれない。
ミスリードを招くレベルのかけ離れた邦題になってしまったのは残念。
ちなみに気になって英語版のビジュアルを検索したが、これもまるでミステリ映画のようなビジュアルだった。なぜなのか。
タイトルしか入っていないのでなにに使われたものかわからないがこんなバージョンもあった。これなら納得できる。
邦題でてっきり葬儀屋がメインの映画であるべきはずだと思い込んでいたが、原題および上記の英語版ビジュアルでエディ・レッドメインの名前が三番手であることからあまりそこに重きをおいて考える必要はないのかもしれない。
葬儀屋という設定がほとんど映画上で意味がないことに引っかかっていたのだがそもそも葬儀屋のクワーティは主人公でなく、むしろ娘と父の物語だったのかもしれない。
今回のブログタイトルにしたとおり、複数の登場人物が入り乱れ、なぜか配給元はミステリ風アピールをしてしまいなんの話だかわかりにくかった「アンダーテイカー 葬る男と4つの事件」は整理すると
「冴えない人生を送る女(ローズ)のもとに現れた謎めいた年配の男(父ジャック)はサンタよろしく小出しにさまざまなギフトを与えたのち、雪の降るクリスマスの夜誰にも知られることなくひっそりとこの世を去るのであった…」というクリスマスの奇跡系映画だったのだ。
それなら難病の息子はラストで死んでしまうのではなく息を吹き返したほうがよかったのではないか?
ローズは息子と父を同じ日に失うが、金の問題にケリがつきやさしい彼氏をゲットし憧れのパリに行ける飛行機チケットをゲットした。めでたしめでたし、ではどうも後味が悪いように思う。
映画というものの性質上、ローズが本当に求めていたのは息子の回復ではなく男と自由でした、という結論に見えてしまい、ローズがひどく身勝手なだけの女に見える。
出会ったばかりのローズと葬儀屋クワーティは一瞬でたがいに惹かれあう。
迷子になっていたローズの犬を保護していたクワーティは、犬かわいさに街中に張り巡らされたローズ作の迷子犬探しのチラシを剥がし回って隠蔽を図ってまで犬を我が物としようとするが、すぐにまた金欠にあえいでいる現実にぶつかり犬をやはり飼い主の元に返そう、とローズに連絡を取る。
金欠のくせにローズからの報酬金の話を辞退するクワーティ。ローズはそこで彼に惹かれる。
「3秒だけハグしていい?」などと奇妙な提案をしてくる出会ったばかりの女は不気味だと思うが、そこでクワーティはローズを愛してしまう。
生まれて初めての恋愛のくせにクワーティがかっこよくリードしセックスを果たした夜、毎日無理をしてでも息子にかけていた電話を彼女はさぼってしまう。その夜に息子の容体は急変し息を引き取ってしまうのだった。
父ジャックの起こした奇跡はローズの悩みの種だった高額な入院費を匿名で支払って去っていくことだ。
それが明らかになるシーンがあまりにあっさりで、どうでもいいことのようになってしまった。
自分が息子から目を離した夜に息子が亡くなる、並の親なら長く悔やむことだろう。
治療費の肩代わりだって、たとえそれが自分が嫌って追い返してしまった父親であれ一言お礼を言いたい、今どこにいるの?と探そうとするものではないだろうか。
息子の死後の彼女の行動はあまりにも性急でいい加減である。
ローズの息子の急変をしったジャックはローズと会おうとするが立場上赤の他人であるため面会できず、雪の路上で亡くなってしまう。
ローズの元にはジャックからのプレゼント、2枚の航空券が届く。
これは以前ジャックがローズに手渡そうとした時にはきつくつっぱねたものだが、息子の死の直後という一番腰が重くなりそうなタイミングにもかかわらずなぜか今ローズは嬉々として航空券を受け取る。
なんなら治療費よりうれしそうである。
(難病の息子をかかえていた女になぜ航空券のチケットをプレゼントしようと思ったのか、しかも2枚って誰用のつもりだったんだ、と疑問は残る)
ローズはなぜかクワーティに黙って憧れのパリに旅立つ。
クワーティは葬儀屋なので息子の葬式をとり行ったり家族を亡くした直後の人によい言葉をかけるなど、なにかと役に立てそうなものだがそういうのは別にない。
わざわざ黙って出て行ったのに、その辺のバス停で魅力的な赤いワンピース姿にトランクを携えたローズはあっさりクワーティに見つかる。
ローズは言う。「一緒にパリに行かない?」
どうせ誘うなら最初から誘ってはどうか。
ローズはトランクを抱えてすでに空港に向かう途中に見えるがクワーティはこのあと家に荷造りに戻ったり店じまいしたり準備に時間がかかるだろう。
別にローズにかかわってこないトランス女性のエピソードとか死にたがってる黒人男性とレストランの女性の恋愛エピソードとか、ほんとうに必要だったのか。
ひとりひとりのキャラクターを深掘りできていないためキャラクターの行動、思考が行き当たりばったりでひどくいい加減に見える。
まだ書き足りないのに2500文字にもなってしまったので今回はここまで。
Newsweekのスペシャル編集ムック。インタビュー豊富で読み応えたっぷり