80歳のスパイス屋さんが伝えたい人生で大切なこと/吉山武子【最近読んだ本】

福岡県久留米市にて73歳でスパイス専門店「TAKEKO1982」をはじめた吉山武子さんが、自身の歩まれてきた人生、夫や父をはじめ関わってきた人々への感謝、スパイスへの愛、それにスパイスをつかったレシピなどをつづった一冊である。

 

スパイス専門店(店内でカレーを食べられるイートインスペースもあり)を主催する以前は、40年間の長きにわたってスパイス料理研究家としてスパイスの実演販売、自宅や各地に移動しての料理教室などの活動をしていたという。

 

いちばんに目を引くのは表紙にもなっているお店のおしゃれなこと。

武子さん好みのヨーロッパ調や南米調をミックスしてデザインされた、映画の舞台のようなすばらしいたたずまいをしている。

 

店のオープンと時期を同じくして夫の進夫さんの介護生活もはじまったそうだが、ずっと連れ添ってきた夫を施設に入れたくないと、デイサービスやショートステイに頼りながら基本は自宅で二人暮らしをなさっている。

 

朝からスパイスを使った健康的な食事を用意し、元気よく進夫さんに声をかけ、ローズマリーオイルを垂らしたお湯で進夫さんの体をふきあげ…。

スパイスやアロマオイルを日々の食事や介護の中にたくみに取り入れているのも素敵だが、二人暮らしで夫の介護をしながら元気に明るく接し続けるということも誰にでもできることではない。

 

進夫さんの介護が最優先、と店に立つ時間も1日1時間ほど(30代〜40代の若いスタッフがいる)と非常に進夫さんを大事にしておられ、たびたび感謝の気持ちがつづられる。

夫に感謝、親に感謝、気にかけてくれる孫たちへの感謝、デイサービスの職員さんに感謝、と身の回りのひとびとへの感謝が次々と語られ、毎日自宅に向かって「無事に過ごさせてくれて感謝」と手をあわせる。

 

それで思い出したのが、筆者の近所のおじいさんは毎日庭に出て自宅に向かい手を合わせて拝んでいることや、これまた近所のおばあさんは毎晩寝る前、自分の足をなでながら「今日も1日ありがとうございました」とお礼を言っているという話で、生活の中に祈りが溶け込んでいる人は案外いるものなのだと感にたえない。

 

 

武子さんは料理教室をしていた頃はほとんど材料費程度しか請求せず、お金が貯まると寄付していたとのこと。

日本では「スパイス」という呼び方が知られていなかった頃からスパイスの良さを広めたいという一心でやってきて、儲けは二の次というスタイルだった。

 

現在のお店「TAKEKO1982」は東京で起業家として才能を開花させた姪のみどりさんが、武子さんのスパイス料理や考え方を世界中の人に知ってもらいたいとプロデュースした「儲けではなく文化を発信」するための場所というコンセプト。

武子さんのこれまでの活動を明確に汲み取った、これ以上ないコンセプトであろう。

 

 

努力をすればだれでも結果が得られるというものでもないが、無私の祈りがそこに添えられていればいずれどこかからのギフトを受け取れるのかもしれない。

 

takeco1982.base.ec