猫のスピード出世

特別お題「今だから話せること

 

ひょんなことから子猫を引き取ることになったのである。

「車でそっち方面に行くときに連れて行くから」という知人の提案に、連れてきてもらえるならその方が楽だと承諾したのが今年の2月。

その子猫は昨日になってやっと我が家にやってきた。

 

猫用トイレや茶碗、爪研ぎなどの猫を迎えるにあたってのアメニティを買い揃え、待ち構えていたところ「(猫を)病院に連れて行ったら、心筋症だった」と知人からの電話。

 

まだ子猫なのに大変な病気なのか、と心配する筆者。

「一週間ほどで治るとの医者の見立てなので、治ってから連れていく」との知人の親切な申し出に感謝しつつも、それからは「ペット保険」と「心筋症」を交互に検索する日々であった。

 

その後、獣医の診断は「まだ治らない。完治まで一〜二週間はかかるかも」と延長された。

送ってもらった写真で見たところ、子猫はいたって健康そうである。

ネットで調べた「猫の心筋症」の深刻な症状に合致しない気がする。ましてや一〜二週間といった短期間で治るような簡単な病気には思えない。

 

病気に詳しくない筆者は首を傾げながらもただ、待つのみであった。

 

ある日、その知人から長文のLINEが送られてきた。内容は猫の生活態度や病気のことなどが書かれていて、読み進めると「真菌症」という文字が目に飛び込んできた。

 

今まで口頭で聞いていて「心筋症」だと思っていた子猫の病気はほんとうは「真菌症」だったのだ。

まったく同じ音の病名をつけるからこんな叙述トリックが完成してしまうのである。いままで病院で医療ミスの原因にならなかったのだろうか。

 

猫の真菌症とは、真菌(カビ)に猫が感染することによる皮膚炎だそうである。つまり子猫の病気は「心臓」ではなく「はげ」だったのか。

しかし、真菌症は感染症であり、他の猫や人にもうつることがある油断ならない病気のようだ。(人から猫にうつる場合もある)

 

ネット記事によると

・部屋を清潔に保つ

・完全室内飼い

・免疫力を保つ

といった予防策がある。

 

再発防止のためせっせと部屋の掃除を始めた。

 

「もう治った」との電話の翌日、つまりこれを書いている日の前日に「ちょうど暇だったから」などといいつつ知人はさっそく家まで子猫を届けてくれた。

子猫は推定八ヶ月だが、おもったより大きく見えた。

 

子猫の後ろ足を見せながら「ここが問題の箇所です」と3センチくらいの横に伸びたはげを説明する知人。

 

「それが、聞いてよ。担当のお医者さん、ずっと真菌症ですっていって薬を塗って治療してたんだけど、ふつうの猫なら一週間もすれば治るのにおかしいなあってなって、昨日?おとといだっけか?『こんなに治らないっていうことは、真菌症じゃなくて遊んでる時なんかにどこかにぶつけて毛が抜けてできた、はげなんじゃないかっていいだしたんだよ」

 

ただのはげならこんなに長く病院通いしなくてよかったのに、と笑う知人。

しかし、時間の経過とともに「動物病院は通院費が高い」「あのお医者さん『間違えてすみません』の一言もなかった」などの記憶がよみがえり、あとから釈然としなくなってきた我々である。

 

 

「心筋症」「真菌症」「たんなるはげ」とわずか一ヶ月のあいだに目まぐるしく肩書きが変わった「異例のスピード出世を果たした猫」の話である。